ユーゲントシュテール期の巨匠、ヘンチェル兄弟(兄ルドルフヘンチェルと弟コンラートヘンチェル)による考案の釉下彩装飾絵皿
その中でもアールヌーヴォー絵付の名作とされる、通称「ダンシング・アラウンド・ア・ツリー」が近日入荷いたします。
マイセン磁器におけるパテ・シュル・パテ技術の開発に大きく関わったジュリアス・コンラッド・ヘンチェルの息子として生を受けた両氏、いわゆるユーゲントシュテール期において外すことの出来ないビッグネームです。
「ヘンチェル」と言えば真っ先に思い浮かべるのは「人形」
マイセン人形の中でも同氏の作った人形は通称「ヘンチェル人形」とも言われ、マイセン磁器にとどまらず、西洋磁器コレクターの中でも広く認知される名作群です。
特に初期ヘンチェルと言われる「ヘンチェルの子供たち」十体余りのオリジナル期個体はマニア垂涎の作品と言われています。
ヘンチェルと言えば人形というイメージが先行しがちですが、実はヘンチェル作品には人形を遥かに凌ぐ逸品が存在します。
一つがパテ・シュル・パテ
耳にした方も多いことと思いますが、フランスで生まれた同技法は西洋磁器の最高技術の一つとされ、その価格は不動産価格にも匹敵するものもある超高額作品です。
特に父親の技術を基にしたヘンチェルのパテ・シュル・パテは一目でそれとわかるほど独創性のある作品群です。
もう一つが「釉下彩」、今回の作品がこれにあたります。
通称「アンダーグリーズ」とも言われ、全ての絵付けは施釉前、素地にのみ彩色を施す技法です。
全ての顔料を吸ってしまう素地において、線出しや彩色、暈しなどを用いて絵付けを行うことは20世紀初頭の西洋磁器においてはほぼ不可能とされ、現在においても芸術作品として最高ランクの技術です。
特に本作は写真でもお分かりのように上記すべての技法を用いたうえ、濃淡や極めて淡い暈しにより遠近感まで再現した難技法で制作されており、特筆すべきはその配色です。
少し専門的になってしまいますが、釉下彩においては全ての絵付けを行ったうえで施釉をして一発勝負で焼成するので、発色温度が違う色は共存できない、すなわち同じ作品において特定の色同士は存在できないと言われておりました。
具体的に赤系と緑系は発色温度が極端に違うため、どちらかが発色しないか焼けてしまうのですが、ヘンチェル作品、特に本作においてはその両方が発色しているのも名作と言われる所以です。
本作の題材はケンドラー時代から存在する「ダンシング・アラウンド・ア・ツリー」をヘンチェル独特の世界観で再現したオリジナルモチーフ
直径253mm、装飾絵皿として制作されたため吊り穴が設けられ、一般の皿より素地が厚く、陶板画に近い趣があります。
また、お皿のどこかにある一定の角度からしか見えない、ヘンチェルサインである”H"が記されています。
ヘンチェル釉下彩装飾絵皿の中でも名作中の名作です。
極めて高額な作品ですが一生に一度巡り合えるかどうかの西洋磁器の逸品です。
乞うご期待
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